最近、とても気になっていることがある。
「丁寧な暮らしってなんだろう。」
40歳を境に、ふと足を止めてみたのをきっかけに、
日々それについて思いを巡らす事が増えてきた私。
憧れの京都で、理想の一人暮らしを模索する。
この話は、様々なしがらみから解放され自分らしく生きる、
ポジティブなおひとり様ライフに向かうべく、新たな決意の物語である。
契約を交わしてからは早かったように思う。サワヤカ君がこまめに進捗を報告してくれていたので、気がつけば内覧日。
物件の近くにある『コーヒー レストラン ドルフ』で待ち合わせ。わざと少し早めに入り、サワヤカ君が来るまでにランチをとることにした。ドイツの別荘をイメージした木の温もり感じる空間と、明るい光が差し込むテラス席でゆったり過ごしていると、日常を忘れ旅行にでも来ているような錯覚をおこす。ちょうどドリアを食べ終わった頃に、サワヤカ君の営業車が駐車場に入るのが見えた。食後のコーヒーで一服し、少し世間話を交わしてからサワヤカ君の「では、行きましょうか。」という言葉で席を立つ。
高鳴る鼓動をあえて楽しみながら現地に向かうと、門の向こう側にちょこんと見えてくる外観に早くも目を奪われた。思わず出てきた第一声が「あらヤダッ!可愛いッ!」だった。玄関の扉はガラス張りの引き戸で、優しいライトモスグリーンの色合いと街灯の陶器がものすごく相性が良い。懐かしいけれど古くささはなく、なんとも心地いい印象を受ける。芝生が広がり、まず目に入るのは大きな窓と主張しないけど長い縁側。鍵を開け「どうぞ」とサワヤカ君が紳士的に引導してくれる。
玄関は広めの土間で腰掛けができる棚もついており、さらにいくつかフックもあるので箒やコートなどいろいろ引っ掛けることが出来るな、と使い勝手が良さそうなのはすぐに想像がついた。リノベーション前の間取りとは大きく異なるという話は聞いていたが、ここまで同じ物件とは思えないほど見違えていたとは、正直想像以上だった。
しかも部屋の割にはキッチンが大きいはずなのに、全然圧迫感もなくスペースも十分あるように見える。振り返りサワヤカ君にそれとなく聞いてみると、「勾配天井になっているのと、床の色と仕切りの色、壁と扉それぞれを統一しているのでそう感じるんだと思います。あとは、二枚の大きなテラス戸ですかね。」と丁寧に説明してくれた。
土間の向こう側にあるのはお風呂場とトイレ。扉を開けてみると脱衣所が思いの外広く、お風呂もゆったり贅沢に入れる広さ。洗面台のタイルも色合いが可愛い。そしてトイレの内壁は穏やかなクリームイエローで、アクセントに腰の高さにホワイトの腰見切が取り付けられていて、その下はモールディングを使って四角くデザインが施してある。清潔感がありながらも飽きのこない仕様になっている。
続いてキッチンの先にある寝室を覗いてみると、庭がある南側の大きな窓と、西側に小さめの窓があり、もれなく明るい。さらに奥は扉がないウォークインクローゼットになっていて、ハンガーパイプや棚が備え付けられており、収納力は抜群なので、新たに家具を買い足す必要もないし、衣類以外の大きなものも収納できるのは間違いない。ちなみに家の中だけでなく外回りも案外広く、キッチン横の勝手口から出ると、洗濯物を干すスペースはいくらでもあるし、他にも庭作業の道具や仮置きのゴミなんかも置けそうだわ。
なにより、一人暮らしにしては十分すぎるキッチンだけれど、料理が好きな私にとっては何の問題もない。憧れのオーブンも置けるし、なんなら他の調理器具も置くスペースがないからと、いちいち片付けなくてもいい余裕さえある。なのに換気扇はコンパクトでスマートだ。それがさらに部屋を広く見せている気がする。家全体はとてもやわらかい雰囲気なのに、スイッチ関係は真逆のミニマルで、シルバーと黒の工業的な雰囲気がかっこいいデザインのもので統一されている。
そう言った甘辛MIXなところがサワヤカ君曰く、下田君の細かいこだわりらしい。さらに、女性の一人暮らしということを考慮し、南側の大きな窓を除いては、防犯上の観点であえて小さくしたり高めにしたりと、ところどころに女性目線を意識した下田君のセンスの良さを感じられる。(もう!そういうところも含め、可愛いんだから!)何だか術中にはまっているようで悔しいけれど、本当に頼れる後輩だ。
家自体、昼間は電気がいらないほど明るい日差しが差し込み、気分まで明るくなる。隣は畑で隣家とは密接していないからか、今まで住んでいた騒々しい街中マンションでは考えられない、ゆったりとした空間を感じる。同じ京都なのに、感じる時間がまるで違うなんて思いもしなかった。
そしてこの家の広さだと、掃除もそんなに手間がかかる感じでもなさそう。物を増やさなければ、掃除機も5分くらいでかけ終える広さだし。一人暮らしの住居と言えど、ゆとりがあるサイズ感が嬉しい!しかも、ほぼ全面が床暖房なので、冷え性に悩まされてきた私にとってはこの上ない仕様である。改めて買ってよかったなと、心から感じた。「気に入っていただけましたか?」サワヤカ君が控えめな笑顔で尋ねてきたので、私はいつものサワヤカ君に負けない笑顔で大きく頷いた。引越しが落ち着いたらお披露目に、庭先で友人とBBQでもしようかな。お礼も兼ねて下田君とサワヤカ君にも声をかけて。車はさすがに置けないけれど、自転車やバイクなら数台停めれる十分なスペースもあるし。早くも、何の料理でもてなそうかと想像してワクワクしてきた私。家を買うまでは、いろいろと考えることがあるにもかかわらず、めまぐるしい毎日に追われ、悶々としながらも漠然とした不安な日々を送っていたのだけれど、まさしくノン・ストレスで快適に暮らす家こそが、私が思い描く丁寧な暮らしに繋がるように思う。そんな訳で今日から私、理想のお一人様ライフを始めます!