妄想物件物語

MACHIYA

物語⑦ Nの場合 京都市左京区岩倉プロジェクトⅡ 第二話

今回の登場人物
N氏 57歳 男性
職業:会社役員
古い車が好きで趣味で1台、普段は足代わりにレンジローバーのディフェンダーにのる。

M美 51歳 女性
職業:テキスタイルデザイナー
移動用にフィアットのパンダにのっている。

レオ:ラブラドール・レトリーバー 2歳 オス

各々家庭を持っていたが、それぞれ訳あって離婚しておりバツイチ同士の50代大人カップル。お互いの子供も独立し、ゆったりとしたセカンドライフを求めて新居を京都に移すことになり、犬と車と私(達)の物語が新たに始まる―――。

素のまま、がいい

いよいよ工事が始まった。
私はまだ関東にいるので、頻繁に様子を見に行くことができないでいると、M美が忙しい合間をぬって、写真に収めてはマメに報告してくれる。
申し訳ないなと気を揉んでいると、そんな気配を感じたのか、
近くに大きな公園があってね、レオを連れて散歩がてらに通っているついでよ」
と、さらっとフォローをしてくれる。
こういった細やかな気配りができるところが、彼女に惚れた一つでもある。

今週は珍しく二人の予定が合った為、担当者との打ち合わせに揃って足を運んだ。
担当者は爽やかな笑顔を見せながら、家屋は一般的に木造が多いなか、RC造(コンクリート)の2階建て建物は珍しく、RCでしか出来ないことをしてみませんか?と遊び心をくすぐる提案をしてくれた。

「面白そうね!私は賛成よ、貴方はどうかしら?」
とM美は目を輝かせて嬉しそうに私を見てくる。私もそんな無邪気に喜ぶ彼女を見て、快く同意した。

そう言えば!と、M美は何かを思い出しパチンッと手を叩いた。
レオが呼ばれたのかと反応して顔をこちらに向ける。
違うの、ごめんねとレオの頭を両手で撫でながら、M美は話を続ける。

「RC造で思い出したけど…解体職人さんの手がね、ずっとブルブルしてるから、すごく気になってそれとなく確認してみたのね。そうしたら、RC造の建物だから解体する時は機器の振動がすごいんですって。余計な心配をしなくても大丈夫だったわ!」
と楽しそうにケタケタ笑った。

直接聞いたのか。と内心驚いたが言葉にはしなかった。目につくポイントが多少ズレているのか、自分が考えもしない視点に気づかされて、毎度の事ながら感心する。コミュニケーションモンスターは、相変わらず健在である。
微笑ましくM美の横顔を眺めていると、その視線の先にいる担当者と目が合った。そのタイミングを見計らい担当者が「例えばですね…」と、資料を広げながら話始める。

「RC躯体を建築する時に、意図せずに出てしまうテクスチャーをそのまま生かして上から塗装するだけにしたりなど、いかがでしょう?」

「他にも、畳×コンクリート絨毯×コンクリートのようにあいまみえることの少ない組み合わせなども、とてもおもしろいと思います。」

「この庭側のお部屋ですが、少し暗めなので天窓と窓開口を大きくして陽射しを取り込み、明るいスペースを作ってみてはいかがでしょう?」

次々にアイデアを説明してくれる。プラスαのある提案はどれも遊び心に溢れたものばかりで、なんと頼もしい限りだ。
レオも嬉しそうに尻尾を全振りで、彼の話を聞いている。M美の表情もキラキラして眩しい。

私たちはM美の家に戻り、今日の打ち合わせの余韻に浸ることにした。少し肌寒くなったものの、すじ雲がすーっと広がる気持ちのいい秋空に釣られ、帰路の途中にあるレ フレール ムトウで大好物のモンブランケーキと明日の朝に食べるパンを少々買って帰る。中の生クリームは少な目で優しい味わいだが、しっかりと丁寧に作られているのが素人の私にもわかる。ちなみに、ここのお店はケーキだけでなく、パンもおすすめである。特にクロワッサン。バターが効いているのにさくさくで重くなく、毎日でも食べられる。

どうせならと、少し遠回りをしてmiepump coffee shopでコーヒーをテイクアウトし、モンブランと合わせて思いを馳せる。

RC造でしか出来ないこと

仕上がりを楽しみに、一旦各々の生活へと戻る―――。