妄想物件物語

MACHIYA

物語③ Yの場合 京都市西京区川島プロジェクト 第三話

麺道

日本にはあらゆる市民権を得た麺料理がある。
例えば蕎麦、うどん、ラーメン、パスタなどなど。
中でもラーメンは、中国大陸より輸入された日本列島で、独自の進化を遂げてきた究極の麺料理のひとつである。
その奥深い麺料理「ラーメン」の道を、この古都京都で極めようとする熱い漢の記録である。

彼の名は、湯面好一(ゆうめんよしかず)。日本一のラーメン好きな県として知られる山形県生まれの38歳。
そんな彼が好きな食べ物と言えば…そう、ラーメン。
自分の理想のラーメン屋を開業すべく、模索しラーメン屋を渡り歩き修行すること16年。
いよいよ、地に足をつけ出発する事を決めたのであった。

契約を交わし、どんどん工事が進んでいく中、ほぼ毎日経過を見に足を運びこれからの事に思いを巡らせながら、いよいよ引き渡し当日。

「1階は店舗として使用できるように土間と砂利の床で仕上げ、水回りもや進めやすいようにしてあります。天井埋め込み型エアコンを設置しやすいように配線等も出来ており、レイアウトからすべてお好きに進めて頂けます。」 爽やか笑顔の営業マンから鍵と書類を受け取り、一通りの説明を受ける。
建物西側から伸びている少し細い階段を、軽い足取りであがる営業マンの後を追い2階へと移動する。「2階は住居としてお使いいただけます。」
渡された鍵で玄関扉を開けてみると、外観からは感じられない空間が広がっていた。
明るい色のヘリンボーン柄の床が、一階のラーメン屋のイメージとはかけ離れた北欧スタイルぽいナチュラルな雰囲気を作り上げ、オンとオフを完全に切り分けてくれ、熱気のこもった厨房での疲れを癒してくれるであろう。

汗をかいた仕事の後には、風呂は浸からない派の彼にとって、最高のスペースであろうシャワールーム。 そして天窓・ロフトを備えた居住空間で一人暮らしにはちょうどいい広さ。何より、ロフトにはエアコンがすでに設置済みなので、新たに買い足す必要もない。
部屋の中心で寝転がれば天窓が優しい光を運んでくれ、ロフトに行けば落ち着ける天井高とゆったり寝転がれる広めのスペースがある。
生活感のある家具はロフトにあげれば、外観のイメージより部屋は広く使えるし、掃除もしやすいであろう。

これでラーメン以外の余計な事考えず、自身の求める素材や味納得のいぐまで追求す、こだわるい。
(これでラーメン以外の余計な事を考えず、自身の求める素材や味を納得のいくまで追求し、こだわる事ができる。)
目頭が熱くなり、自然と山形弁が口に出る。

昔ながらの古民家や、樫原陣屋跡、郷倉、樫原廃寺跡の史跡公園、天皇の社古墳等近くには歴史を感じれる地域にありながら、阪急桂駅からも徒歩15分程度と人も車も活発に往来するこの土地で、俺のラーメン道極めます!
そう心に誓いながら振り返り、相変わらず涼しげな笑顔が爽やかな営業マンと温度差を感じつつも、熱い握手を交わす。
とはいえ、今住んでいるマンションは2年契約なので、次の更新までひとまず二階は貸すことにしよう。

――――――さあ、これからだ。

赤い暖簾を掛け、これまでのラーメンにかける想いくらい熱々のスープを仕込みながら、今までに出した事のない腹の底から大きな声で、湯切りのごとく麺道のスタートを切る。

「いらっしゃいましぇ(いらっしゃいませ)!!」

【fin】