妄想物件物語

MACHIYA

物語③ Yの場合 京都市西京区川島プロジェクト 第二話

麺道

日本にはあらゆる市民権を得た麺料理がある。
例えば蕎麦、うどん、ラーメン、パスタなどなど。
中でもラーメンは、中国大陸より輸入された日本列島で、独自の進化を遂げてきた究極の麺料理のひとつである。
その奥深い麺料理「ラーメン」の道を、この古都京都で極めようとする熱い漢の記録である。

彼の名は、湯面好一(ゆうめんよしかず)。日本一のラーメン好きな県として知られる山形県生まれの38歳。
そんな彼が好きな食べ物と言えば…そう、ラーメン。
彼の考える理想の店は、看板はなく赤いのれんがかかってるだけのような店構え。
席数は10席もあれば十分だ。メニューは絞り込んで最小限。
ラーメン屋を渡り歩き修行すること16年。

独立を実現するためにはまず、箱が必要だ。
条件に合う物件を探すために訪れた近所の不動産屋。
扉の向こうではひときわサワヤカな笑顔の男性が電話対応をしている。
店の中をじっと見つめる視線に気づいた男は電話を切ると扉に近づき、声をかけてくる。
彼はこだわりのラーメン屋を開業したいと言う熱い想いと、16年コツコツと溜め込んだ資金予算を、一通り男にぶつけてみた。
すると男は難しい顔でパソコンに向かいだしたが、しばらくすると「ちょうど、いいのがありますよ。」と元のサワヤカな笑顔で言った。

場所は阪急桂駅に近く、大通りではないが道幅の割に交通量は多い国道沿いで、周りは住宅街。
もともとは何かの事務所だったらしく、なかなか年季が入った建物だったので、今はフルリノベーション中の物件だそう。
今回の工事で柱も新しく補強し、一階は店舗、二階には住居を構えるらしい。
四六時中愛しいラーメンに没頭したい彼にとっては他にない、好都合の物件だ。
彼は早速物件を見に行くことにした。

まだ外はブルーシートで覆われているが、一目見た瞬間彼に衝撃が走った。
もちろん、工事の途中で全貌はまだまだ見えないが、直感的な手応えを感じたのだ。
広さ・立地条件・価格と何もかもが彼の理想に近く、夢にまで見た物件ではないか。
丁寧に状況を説明してくれる大工さんにまで思わず胸が熱くなり、人目をはばからず涙が溢れた。
――――――この箱なら、いける!
確信を得た彼は振り向き、サワヤカな笑顔で見守る男に向かって大きく頷いた。

「俺、ここでラーメン屋開業します!」