妄想物件物語

MACHIYA

物語③ Yの場合 京都市西京区川島プロジェクト

麺道

日本にはあらゆる市民権を得た麺料理がある。
例えば蕎麦、うどん、ラーメン、パスタなどなど。
中でもラーメンは、中国大陸より輸入された日本列島で、独自の進化を遂げてきた究極の麺料理のひとつである。
その奥深い麺料理「ラーメン」の道を、この古都京都で極めようとする熱い漢の記録である。

彼の名は、湯面好一(ゆうめんよしかず)。日本一のラーメン好きな県として知られる山形県生まれの38歳。
今は、学生時代から住み慣れている京都ラーメン激戦区の一乗寺に住んでいる。
そんな彼が好きな食べ物と言えば…そう、ラーメン。

どれくらい好きかと言うと1日2食でてきても文句は言わないし、
「今日の晩御飯はどうしようかな?」ではなく、「今日の晩はどこのラーメン屋に行こうかな?」が常である。
本人の記憶には無いが、母親の話では離乳食を卒業した辺りからラーメンを手掴みで食べていたらしい。
それも相まって、幼少期のあだ名は「ラーメンズキー」。
もう全てにおいて、麺を作る為に生まれてきたような宿命の漢なのである。

その彼が師と仰ぐのは、ラーメンを日本で初めて食べた水戸黄門こと徳川光圀である。
(1697年に中国の儒学者に教わり麺を作り、家臣に振る舞ったとする記憶が残っているそうだ。)
そして徹頭徹尾抱く夢は、ラーメン屋を経営すること。
彼にとってラーメンはニコチンやカフェインと一緒で、依存性を持った麺と旨味成分に加え、
背脂によってもたらされる幸福感、あふれるスープ付随してお腹いっぱいの満腹感を一気に得られる、
万能なものなのである。

彼の考える理想の店は、看板はなく赤いのれんがかかってるだけのような店構え。
席数は10席もあれば十分だ。メニューは絞り込んで最小限。
と言うのもラーメン屋に行ってメニューがたくさんあると迷ってしまい、本当に食べたいものがブレる。
だからどれかに絞って味を極めて、それだけを出すことに集中してるほうがいい。
ラーメン屋を渡り歩き修行すること16年。時は満ちた――――――